徳島市 K邸

敷地は、伝統民家や田園風景が見られる、徳島市内の閑静な住宅地である。施主は退職前後の夫婦で、先々代までは林業を営んでいたことから、名西郡神山町にスギやヒノキの山林を多数所有していた。鮎喰川のいかだ流しで昭和13年まで材木の出荷が行われた地域である。 山林を確認した所、未利用でありながらも定期的管理のおかげで良材が多数あり、麓に賃挽きが可能な製材所もあったことから、その持ち山からあらゆる用材を調達する計画とした。

構法は板倉構法で、梁桁以外の屋根、壁、床、の基本構造を、流通規格寸法である4寸角と1寸の本実板でつくり、内装は構造を表しとするため、木の魅力が最大に発揮される。壁は、4寸角の柱の港に1寸の本実板を落とし込むが、施主の山は目通り1尺5寸程の木もあったため、開発者の助言を得て、すぺての柱を4寸角にするのではなく、大木を活かしてスギ4×6寸の平角の柱を1寸5分の間隔で並べ、5分ずつ溝をついた9寸の柱間に幅1尺、厚1.5寸の厚板を上から縦に落とすことにした。この重厚な壁面は、1階の居間や食事室などの生活の中心となる室に配した。また、柱材用に植林されていたヒノキは、厚1寸5分や1寸の板材に挽いて建具材、床材とした。最終的には、特殊な焼きスギの外装材以外は、ほぼ持ち山の木で家具や建具までつくることができた。持ち山の木を利用してもコストは流通材を使用した場合と変わらないが、市場に流通していない断面寸法や木配りに配慮することで、持ち山を利用する意義が発揮されると考えた。

伐採、製材は、230石という量の木材の乾燥や保管場に苦心しながらも、退職直後の施主の直営方式で行われ、葉枯らし乾燥や、徳島の敷地近くでの半年近い桟積天然乾燥は、施主自身も参加して実施された。持ち山にあわせた設計によって多様な木の家が生まれる可能性を示すことができたと考える。